ちょっと時間がとれたので、今回の手術と入院についてまとめておく。
11月4日
この日の12時すぎに病院に入り、入院開始。6人部屋のベッドの脇でパジャマに着替えて待機。
1時間おきくらいに麻酔科の医師やら呼吸器科の医師やら看護婦さんやらがやってきて、いろいろと手術の準備/説明をしてくれる。もっとのんびりできるのかと思ったら、けっこう忙しい。
午後6時から執刀医の説明があるということなので、妻がやってくるがいっこうに説明が始まらない。どうやら医師が忙しくて時間が遅れているらしい。結局説明が始まったのは午後7時すぎ。
説明の内容は、手術の具体的な方法と危険性についてのもの。私が受ける手術は「鼻中隔矯正術・下鼻甲介切除術および内視鏡下鼻内汎副鼻腔根本術」だそうな。手術のすべての操作は鼻の穴から行うので、顔面に傷跡が残るようなことはない。説明用にもらったプリントから抜粋すると次のような手術になる。
まず、両鼻の真ん中にある鼻中隔軟骨を両側の粘膜から剥がし、メスやノミを用いて摘出します。…途中略… 次に、変形した軟骨をなるべく平らにし、また戻し、まっすぐに固定します。
ノミ! ノミを鼻の穴から入れてガッツン、ガッツンやられるっていうのはあんまり嬉しくないなぁ。全身麻酔だから平気なのかな。
さて、鼻がまっすぐになったら次が蓄膿症の手術だ。
内視鏡で鼻の奥の副鼻腔をモニターしながら、ポリープや炎症の強い粘膜を鉗子で削り取ります。
まぁ、ここまでは以前にも聞いていた話なので問題なし。問題なのは危険性の話。
医師「まれに脳と副鼻腔の間の骨がもろくなっていて破れてしまうことがあります。こうなると髄液がだぁーっと流れてきて、脳炎などに感染する可能性がでます。あと、目と副鼻腔の間の骨は紙様板と呼ばれるほど薄くできているので、これを突き破ってしまって、目の筋肉を傷つけてしまうことがあります。こうすると物が二重に見えるようになります。」
ちょっと待て、通院している間は「まぁ、よくある手術ですからね」みたいな気軽な感じだったのに、入院した途端にこの危機感あふれる話はなに? 横で聞いている妻の目が点になっている。鼻から髄液垂れ流して、物が二重に見えるようになったら、私はどうすりゃいいの?
とりあえず、医師の「私は同様の手術を何十例となく行ってきましたが、一度もこのような問題は起きていません」という言葉を信じて、4枚ほどの書類(承諾書)に署名・捺印した。まぁ、危険性の話は必要だし(説明してくれなかったら大問題)、失敗したときのことを考えていたら盲腸の手術だって受けられなくなってしまう。ある程度リスクがあるのは当然だからね。
説明を聞いた後、妻が帰宅し、こちらはベッドでごろごろ。すると看護士の方がやってきて、手術をする場所を間違えないようにマーキングするというので、してもらう。鼻の下に黒丸を2つ、ぐりぐりと書かれた。かなり格好悪いかも。
10時消灯でいつもより寝る時間がずいぶん早いのだが、疲れていることもあって、緊張することもなく熟睡。
11月5日
さて、手術当日。朝7時に起きてすぐに点滴。その後素っ裸になって、割烹着みたいな手術着を着る。今回初めて血栓予防用のストッキングというのをはかされた。エコノミー症候群の予防にも使われているものなのだそうだけど、けっこう締め付ける力が強い。
白いストッキングに手術着を身につけた私の姿を見て、妻が笑って記念写真を撮ろうかというが、もちろん断る。
8時半に看護婦さんにつれられて手術室へ移動。手術室の入り口で少し待たされたのだが、このとき座らされた椅子がすべて壁向きに置かれているのにちょっと驚く。患者に手術室で行われていることとか、そこを通る他の患者を見せないための配慮なのだと思うけど、目の前の壁を見ながら手術を待つというのはあまりいい気分じゃない。横に付き添いの看護婦さんがいてくれて、励ましてくれるのが救いかな。
名前を呼ばれて手術用ベッドに移動し、手術室へ。麻酔科の医師が待機していて、すぐに全身麻酔に入る。医師が「じゃあ、点滴から麻酔薬を入れますね。少しずつ眠くなりますから」と言った次の瞬間に目の前が暗転。「鈴木さん、鈴木さん」という呼び声を聞いて目を開けるとすべて終わっていた。感覚的には一瞬で終わってしまったが、妻に聞くと手術室から出てきたのが12時半だったというから正味4時間かかったことになる。
手術は順調で問題なし。右の粘膜が腫れていたので削除したとか。私は見ていないけど、妻は削除した粘膜やら取り出した膿を見せられたそうで、汚らしくて気持ちが悪かったと言ってたな。一応取り出した組織については病理学検査にまわしますとのこと。
病室に戻ってしばらくすると麻酔が切れて痛みが出てきた。鼻の真ん中あたりから痛みだし、上は頭痛、下は歯までが痛みだし、とてもがまんできない。なんというか、顔の骨の中にジャッキかなにかを入れて内側から割ろうとしているような痛みだ。手術後に鼻の中にガーゼを入れているので、これが内側から骨を圧迫しているらしい。もちろん、鼻で呼吸はできず、口を開けっ放しにして口呼吸しないといけない。
痛くて苦しくてたまらないので、ナースコールを入れて看護婦さんに痛み止めを頼む。すると驚くなかれ、
「鈴木さんはアレルギーがあるので、通常の痛み止めは使えないんですよねぇ。」
などと言うではないか! まさかこのままほっとく気か? びっくりしてうめき声をあげながらベッドに起き上がりかかる。目からは痛みで涙がこぼれているし。私の反応に驚いたのか、看護婦さんが「ちょっと先生に相談してきます」と言って病室から飛び出て行った。しばらくして、別の薬を使えることになったからと言って座薬を持ってきて入れてくれたので、ほっと一安心。1時間ほどで痛みがやわらいで眠ることができた。
5時頃には尿道に入れてあったカテーテルを抜き、歩いてトイレに行けるようになった。尿道からカテーテルを抜くのっていやなんだよね。大量のおしっこをむりやり引きずり出すような痛みがあって気持ちが悪いし、抜いた後にも痛みが残る。今回は二日間ほどおしっこをするときに痛みが残った。
痛みがあって苦しいものの、歩き回れるようになったし、6時に出た夕食は普通に完食できたので、それほど負担の大きな手術ではなかったんだろうな。まぁ、鼻の曲がりを直して、たまっていた膿を出しただけだし。
しかし、トイレに行って鏡を見てびっくり。鼻がパンパンに膨れ上がって普段の三倍くらいになっている。妻がムーミンみたいだと言っていたけれど、ほんとうにそんな感じ。しかも鼻の穴には綿球が入っていて、それを押さえるためのガーゼがテープで止められている。しかも手術のマーキングの黒丸まで鼻の下に残っているし、呼吸をするために口は半開きだし、かなり間抜けな状態。妻が記念写真を撮っておこうかと聞いてきたけど、当然拒否。
痛み止めは6時間たたないと次の投薬ができないと言われたのだが、5時間をすぎた頃から痛みがぶり返してくるので、6時間になるのを待ってすぐにナースコールを入れて再度痛み止めの座薬を入れた。結局鼻のガーゼが取れるまで、ずっと6時間おきに痛み止めを入れ続けることになる。ただ、痛み止めが効いている間はよく眠れるので、これが救いと言えば救いかな。手術は無事に終わったのだから、あとは体が回復するのを待つだけ。とにかく飯を食って、寝て、時間をやり過ごすことにする。
11月6日
朝の5時頃痛みで目が覚めたのだけど、口の中が声をだせないほど乾ききっていて驚いた。水を飲もうにも、鼻が完全にふさがっているため飲み下すことがなかなかできない。これにはまいった。この日から少しでも口の乾きを押さえるために常時マスクを着用するようにした。
午前中に医師の診察を受けたが、手術後の経過は順調であまり血も出ていないし、もちろん物が二重に見えたりもしない。
しかし、薬のおかげで痛みは感じないものの、顔から頭が重苦しいし、口でハァハァ息をしている状態では何もする気になれない。午後に妻と母が見舞いにきてくれたけど、ほとんど話らしい話もできなかった。ひたすら寝て過ごす。
11月7日
痛みもだいぶ少なくなってきたし、血もほとんど出なくなった。しかし、まだまだ痛み止めなしにはいられない。この日もひたすら眠って時間が過ぎるのを待つ。
診察の際に医師から「月曜日の午前中にガーゼを取りましょう」と言われる。早く月曜日が来てほしい。鼻で呼吸がしたい!
11月8日
ガーゼが取れるまであと1日、今日を越えれば鼻で呼吸ができるようになる。それだけを考えてひたすら時間が経つのを待つ。
午後に妻のお母さんと妹がお見舞いにきてくれたのだけど、挨拶くらいしかできなかった。申し訳ないが仕方がない。
11月9日
今日はガーゼが取れる日だ! 朝から診察を待っていると、看護婦さんが「診察時間に合わせて痛み止めを入れるようにしましょう」と言ってくる。鼻からガーゼを抜くのは痛いという話は以前から知っていたので、看護婦さんに「ガーゼを抜くのってそんなに痛いんですか?」と聞いてみると「痛いと思います」と同情するような顔で言うではないか。そんなに痛いのか? 不安に思いつつも診察の2時間前に座薬の痛み止めを入れ、いざ診察室へ。
「スプレーの麻酔をかけながら抜いていきますからね」という医師の言葉通り、シューッと鼻の穴に麻酔薬をかけては1枚ずつピンセットでガーゼを抜いていく。これがなんというか、頭の中というか、顔の奥というか、普段は存在を意識しないところからズルズルとガーゼがひっぱり出されていく。気持ちが悪いし、骨(たぶん)とこすれるところがすごく痛い。思わずうめいてしまう。出てきたガーゼは血だらけだ。
シューっとスプレー、「はい、抜きま〜す」ズルズルズル、痛い痛い、うぅ!「だいじょうぶですかぁ?」
と、これが延々と繰り返される。たしか、片側で8枚ガーゼが入っていたはず。ガーゼといってもリボン状のもので、けっこう硬そう。ピンセットでつまんでも乾いているときは垂れ下がったりしない。こんなものが一つの鼻の穴に8枚、両方で16枚も入っているのだからムーミンになるのも無理はない。そりゃ痛いよ。
左側の8枚を抜いたところで少し休憩、さらに右側の8枚を抜いたときにはもうぐったり。涙がでてるし。ここで「少し休みましょう」と言って、医師が診察の椅子を倒して寝かせてくれた。しばらく休んでから鼻を診てもらったところ、医師が「まだ血が出そうなので、ガーゼを少し戻しましょう」と言い出した。エッと思う間もなく、医師がピンセットにガーゼをつまんで鼻にズルズルと押し込み始めた。痛い痛い痛い! なにせこのガーゼ、幅が2cmくらい、長さが10cm以上あるんだよ。見せられたら、こんなもの絶対鼻の穴になんか入らないってみんな言うよ! でも入っちゃうんだよ、すごく痛いけど。
結局、左側に2枚、右側に3枚、新しいガーゼを入れて今日はおしまい。病室に戻ってベットに倒れ込んでしまった。鼻を中心に鈍痛がひどいし、少し熱も出ている。ただ、鼻に入っているガーゼの量が劇的に減ったので、かなり楽にはなった。完全ではないものの鼻で呼吸もできる。鼻は偉大だ!
11月10日
午前中の診察で、医師が昨日入れたガーゼをすべて取ってくれた。枚数が少なかったせいか、昨日ほど痛まなかったのでほんとうに助かった。綿球だけは入れられたけど、これも出血しなければ取っていいと言われたので、昼過ぎにははずしてしまった。
嗚呼、鼻でちゃんと呼吸ができる。なんて幸せ! ものを飲み込むのも苦にならない。すばらしい!
急に元気になったので病院地下の売店に行って、おやつと飲み物と雑誌を買ってきた。おやつを食べながら雑誌を読む、この幸せ! 痛みはまだ残っているものの、かなり楽になってきたので痛み止めを座薬から飲み薬に変えてもらった。もうだいじょうぶという感じ。
夕方、医師が病室で鼻を診て「問題ないので予定通り12日に退院でいいでしょう」と言ってくれた。やったね、あとちょっと。
一気に体の調子が上がってきたのはいいんだけど、ひとつだけ問題があって、夜眠れなくなってしまった。痛み止めを弱いものに変えたからだと思うのだが、消灯時間になってもまったく眠くならず、しかたなく2時間くらいベットでぼーっとしているはめになった。まぁ、痛かったり苦しかったりするよりずっとましなので気にしないことに。
11月11日
今日の診察は鼻の洗浄だと聞いていたので、まぁ鼻を洗うくらいなんてことないでしょ、と気楽な気分で診察室へ。ところがこれがけっこうたいへんだった。
金属製の細い管みたいなのを鼻の穴に入れて、手押しのポンプみたいな奴を使ってビーカーに入れた生理食塩水を流し込むんだけど、この金属の管が鼻の中にあたってけっこう痛い。医師が「水を入れるときにエーッと声を出してください』と言うので、「エーッ」と言うと水が鼻にガボガボと入ってくる。これが管の入っている穴と反対の穴からダボダボ流れ出してきて、その中にけっこう血の固まりがまざっている。一度、喉のほうにずるっと固まりが出てきたので吐き出したら、これも血だった。気持ち悪い。
で、水を入れるのが終わると、今度は金属製のストローを掃除機の先につけたようなので鼻の穴の中を吸い取っていくのだけど、これがすごく痛い。やっている間中うめきっぱなし。
病室に戻って、またもやぐったり。明日も午前中に洗浄をして、そのあと退院だとか。こんなことされて、元気に病院を出て行けるのかどうか心配になってしまう。ただ、体は順調に回復しているらしく、午後からは雑誌やら持ってきた本やらを読んで過ごした。
11月12日
さて、退院の日だ。今日は昨日と違って、鼻全体を洗うとかいうので、噴水みたいに鼻の先から水を入れるのでずいぶん楽だった。ただ、ストローみたいな奴で鼻の中を掃除するのは痛かったけど。とりあえず昨日のようにぐったりとはせずに済んだ。
退院後に飲む薬をもらい、お世話になった看護婦さんに挨拶をし、会計を済ませて、すべて終了。荷物を持って病院を出て、昼過ぎには家に帰ることができた。家に帰ったときは、ちょうど妻も息子もでかけて留守だったが、珀美がしっぽをちぎれんばかりに振って迎えてくれた。やっぱり家が一番だと実感。ほんと、入院なんてするもんじゃないよ。
総括
蓄膿症の手術なんてたいしたことないと思っていたけど、大間違い。鎖骨を骨折して入院したときより、ずっとたいへんだった。とにかく鼻にガーゼが入っている間の痛さ、苦しさは二度と経験したくない。鼻がなにかおかしいなぁと思ったら、できるだけ早く耳鼻科にかかることを強く勧める。私ももっと早く耳鼻科にかかっていれば、手術なんて受けずに済んだはず。
東京医科大学病院にかかるのは今回が初めてだったけど、とてもいい病院だと感じた。医師の腕の善し悪しはよくわからないけど、今のところはよかったと思っている。あと、医師、看護士、看護婦のすべてが、ほんとうに親切で明るくて、とても助けられた。ただの偶然かもしれないけど、医師も看護士も看護婦も皆すごく若い。ほとんどのスタッフが20代だと思う。年を取っている人でもせいぜい30代のはず。看護婦さんは皆20歳前後なんじゃないだろうか。若くて元気で明るいスタッフに囲まれていると、晴れやかな気分になってくる。痛くて苦しいときにそれほど落ち込まずに済んだのは、彼らの明るさのおかげだと思う。心から感謝している。
ただ、まぁこの若くて可愛らしい看護婦さんにおちんちんからカテーテルを抜かれたり、肛門を開いて座薬を突っ込まれたりするのはあれなんだが、しょうがないよね。病人だし。色気のある話から縁遠くなってずいぶんになるし、どうでもいいかそんなこと。
退院後の経過については、ぼちぼち書いていくつもりなので、今回はこれまで。
退院おめでとうございます!そしてお疲れ様でした。
返信削除ノミとか髄液とか、笑い事じゃないんだけど面白い(笑)
何にしても無事でなによりです。
入院お疲れ様でした。
返信削除痛い話ですねぇ。
私も15年ほど前に椎間板ヘルニアの手術をして、術後の痛み(1ヶ月ほど続きました)の
経験があったので、もろもろの痛みが他人事ではありませんでしたよ。
しかし、昔の蓄膿症の手術は(症例にもよるけど)、鼻の下から唇にかけて開いてから
手術することが多かったように思います。そう考えると顔に傷も残らないし、技術もずいぶん
進歩したんですね。。
いずれにしても、お大事に。